69歳の直ちゃんです。
昨日は、いとこのYちゃんが「懐石料理のお店に連れて行ってあげる」と言ってくれた日でした。
なんと、1ヶ月も前からのお誘いです。
待ち合わせは、JR上野駅の公園口改札に17時15分。
でもね。
私には、その1ヶ月のあいだ、ずーっと言い出せなかったことがひとつあったんです。
■「聴いて」の四文字が、言えない
私、上野駅の駅ピアノをホームグラウンドにしております。
だから、せっかく上野まで行くなら、いとこに私のへたっぴな演奏を聴いてもらいたい。
そう思っていたわけです。
ところが、これが言えない。
<聴かせたいじいさん>
「1ヶ月も前から誘ってくれてるんだ。ついでにピアノも聴いてもらおうよ」
<恥ずかしがりじいさん>
「やめとけやめとけ。呼ばれてるのはメシだぞ。ピアノは頼まれてないぞ」
<聴かせたいじいさん>
「でも、こんなチャンス、次はいつ来るんだ」
<恥ずかしがりじいさん>
「向こうは気を使って『いいね』って言うだけだぞ。それでいいのか」
<聴かせたいじいさん>
「……いい」
いや、よくないでしょ。
■26日(水)、ついに送ったLINE
で、とうとう三日前に送りました。
「Yちゃん、こんにちは。
このところ、また、一段と蒸し暑くなってきたね。
金曜日、楽しみにしてます。
お店に行く前に、ぜひ、上野駅構内にある『駅ピアノ』で私の下手な演奏を聴いて!
NHKのEテレで3年前に『3ヶ月でマスターするピアノ』って番組を見て、66歳で始めたんだ。
『3ヶ月でマスターする…』とのうたい文句だったけど、
オレは『3年たっても、マスターできないピアノ』だけどね。
レッスンにも通ってないから、お耳汚しだけど、
せっかく上野駅まで行くので、弾いてみたいと思ってだよ。
ピアノは、ちょうど『公園口改札』の近くなので、駅ピアノのところで待ち合わせはどう?」
……長い。
たった「聴いて」の四文字を言うために、こんなに前置きを書く69歳。
自分で読み返して、ちょっと笑いました。
■16時55分、常磐線の中
いま、上野駅に向かう常磐線の中です。
前回、駅ピアノを弾いたのは……よく覚えていませんが、2ヶ月ぶりくらいだと思います。
結果は、どうなることやら。
って、上手く弾けても、弾けなくても、どうもなりませんけどね。
でも私、この「人前で弾く緊張感」が好きなんです。
毎朝のピアノ練習の励みにもなる。
だから、たとえ嫌がられても、機会をとらえて披露していきたいと思ってます。
(すでに嫌がられている可能性は、この際、考えないことにします)
■写メの気配
ピアノの場所には、私のほうが先に着きました。
誰も弾いていなかったので、ひと足先に座らせてもらいます。

弾いていると、途中から、うしろで写メを撮る気配がしました。
(お、Yちゃんが来たな)
とは思いましたが、ここで止めたら台無しです。
そのまま1曲、最後まで弾き続けました。

弾き終わって振り返ったら、やっぱりYちゃんでした。
まずは「ピアノに座っての笑顔」を、パチリと撮ってもらって。
そしてあいさつ。
Yちゃんが言いました。
「直ちゃん、大したものだよね、66歳からピアノも始めるなんて。」
私が期待した通りの答えを、返してくれました。
……はい。
1ヶ月かけて仕込んで、期待通りのセリフをいただいて、満足している69歳がここにおります。
■歩いて10分、おもむきのある日本家屋
その後は、近況をしゃべりながら公園の中を歩きました。
(お店は、どこに行くのかなぁ…)
10分ほど歩いていくと、おもむきのある日本家屋が見えてきました。
(ここだなぁ…)

歴史を感じさせる玄関です。
せっかくなので、印象的な玄関の前で2人でパチリ。

お店の名前は「韻松亭(いんしょうてい)」さん。
なんと明治8年の創業で、上野公園そのものと一緒に歴史を重ねてきたお店だそうです。

玄関を入って、階段を登って、細い廊下をしばらく歩いていく。
その奥のほうに、お庭が眺められるすてきな個室がありました。



個室がいくつもあるようで、相当の部屋数があるように思いました。
■まずは生ビールで乾杯
まずは、生ビールで再会に乾杯。

お料理は、会席「葵」。
お品書きには、令和八年 葉月と書いてありました。

・先附 蟹団子 寄せ玉子/いちぢく胡麻クリーム/湯波 翡翠トマト 姫さざえ
・椀 夕顔 鱧 柚子
・造里 おまかせ三点盛
・焼物 鮎の塩焼き ベビーコーン
・煮物 金目の煮付け
・揚物 海老真丈 もろこし揚げ
・食事 鯛飯 茶漬け汁/香の物/赤出汁
・水菓子







懐石料理ですので、季節を感じさせてくれるステキなお料理が、次から次へと運ばれてきます。
でもね。
一番のメインは「2人の思い出話」でしたので、
ついつい、話に夢中になってしまいました。(お料理さん、ごめんなさい・・・)
■ボーン
そんな最中に、突然、ボーンと大きな鐘の音が聞こえました。
時計を見たら、18時ちょうど。
お料理を運んできた仲居さんに聞いてみました。
「さっきの鐘の音は、なんですか?」
「このお店のすぐ隣に、上野寛永寺の鐘楼があるんですよ」

なんとも風情のあるお話です。
デジタル時計と、鐘の音。
どっちが正確かは知りませんが、どっちが心に残るかは、はっきりしています。
■1歳上のお兄ちゃん
私には、6歳上の兄がいます。
でも6歳も離れていると、兄弟といっても、年齢的にケンカにもならないくらいでした。
その点、いとこのYちゃんは、私より1歳上。
この頃の「1歳上」って、結構なお兄ちゃんなんです。
小学生、中学生、高校生と、多感なときに受けた刺激は今でも忘れません。
今でも鮮明に覚えているのは、うちの家に泊まりに来ると、いつも一緒にお風呂に入っていたこと。
そのYちゃんが中3のとき。
野球部のキャプテンで、大胸筋が盛り上がった、いい体をしていました。
中2の私は、自分の貧弱な体に劣等感を感じたのを、よく覚えています。
……でもね。
今になって思うんです。
あのとき「貧弱な体だ」というコンプレックスを持ったおかげで、
この歳になっても、今の体が維持できているのかなぁ、と。
56年前のYちゃんの大胸筋に、感謝しなければいけません。
■40日のバックパッカーと、10日のバックパッカー
思い出話は、どれも楽しかったのですが、
1番楽しかったのは、Yちゃんが早稲田大学の2年生のときに、
40日以上かけてヨーロッパをバックパッカーで回ったときの話です。
実は私も、30歳のときに10日間ほどですが、
同じようにバックパッカーでヨーロッパを回ったことがあります。
40日と10日。
だいぶ差はありますが、そこは黙っておきました。
自分の思い出と照らし合わせながら、ワクワクして聞いていました。
若いときの一人旅の冒険旅行は、行っている最中は、ほんとうに大変でした。
でも帰ってきて、この歳になって、こんなにキラキラした思い出になる。
あらためて、そう思いました。
■だから、へたっぴでも弾く
ということは、ですよ。
昨日の夜も、いつか、キラキラした思い出になるということです。
上野駅で下手なピアノを弾いて、いとこに「大したものだよね」と言ってもらった、この日も。
だったら、恥ずかしがっている場合じゃありません。
来月も、再来月も、私はまた上野駅のピアノの前に座ります。
そして、また誰かに言うんです。
「せっかくだから、聴いて!」
……その一言に、また1ヶ月かかるかもしれませんけどね。
Yちゃん、ごちそうさまでした。
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