とうとう、この日がやってきました。
人生初、オープンウォーター大会当日。
ココスの朝食バイキングでしっかり燃料補給を済ませ、9時30分に受付へ。
手の指、足の指、爪のチェック…と、まるで身体検査。「泳ぐ前に、まず自分が売り物として大丈夫かを見られてるのかな」なんて思いながら、両手首に計測器(トランスポンダー)を装着。これで晴れて、泳ぐ資格を得た69歳です。
一段落したところで、同じマスターズクラブの仲間がこの大会のボランティアをしてくれていたので、記念撮影をパチリ。

それにしても、お天気が良すぎる。暑い、暑い、とにかく暑い。
たまらずアップがてら海に入ったら、これがもう、極楽。「泳ぐ前からこんなに気持ちよくて、いいんだろうか」と一瞬うしろめたくなるくらいでした。
ちょうど私が海に浸かったタイミングで、5キロを泳ぐ人たち(黄色いキャップ)がスタート。
合図は笛じゃなくて、「ブゥゥゥゥー」というホルン。
その音とともに、黄色い集団がバシャバシャバシャッと沖へ。あれはもう、網にかかった魚の群れそのもの。
「オープンウォーターのスタートって、こんなにもみ合うのか…」と、他人事のようにのんびり眺めていた私。まさか10分後、自分がその魚になるとも知らずに。
■ 待機イスで、まさかの再会ラッシュ
10時10分。テントの下、自分の番号が書かれたイスに座ってスタートの説明を待ちます。
すると、私のイスのすぐ後ろに、昨日のOWS練習会で一緒だった、目のくりくりした素敵な女性が。
これはご挨拶せねば、と即・声かけ。彼女はオープンウォーター2回目、私と同じ3キロとのこと。
……はい。可愛い子がいると、すぐに声をかける。私ですからね。この歳になっても、そこだけは現役です。
さて、競技説明。スタートの態勢、ブイの位置、白い横断幕の関門を3周くぐったらゴール、給水はブルーのボートで…と頭に叩き込みます。
説明が終わり、5分ほど時間ができたので、ウェットスーツの背中のファスナーを上げてもらおうと、近くの年配の男性にお願いしました。
そのとき、隣にいた40歳くらいの女性の顔を見て、「…あれ?どこかで会ったような」と心の中でモヤモヤ。でも、声をかける勇気は出ず。ここは可愛い子担当の私が、まさかの人見知り発動です。
すると、向こうから声をかけられました。
「もしかして、四谷ジェクサーにおられませんでしたか?」
「あっ、いました、いました!」
「私、高橋です」
「……高橋みよ先生っ!」
なんと、私が45歳くらいの頃、新宿・四ッ谷のスポーツクラブで水泳のパーソナルレッスンを受けていた、あの先生。
「泳ぎが早くなりたい!」と鼻息荒かった当時の私を、何度も見てくださった先生に、こんな海辺で再会するとは。
水泳を続けていると、水泳で出会った人にまた出会える。
これもまた、続けてきた者だけがもらえるご褒美だなぁと、しみじみ。
■ いざスタート。のんびり作戦、3秒で崩壊
招集がかかり、スタート地点へ。
まず波打ち際に一列。そこから腰くらいの深さまで進んで、張ってあるロープを右手で持ちます。
カウントダウン、そして「ブゥゥゥゥー」。
スタート前、私は固く誓っていました。「バトルはしない。ゆっくり行こう」と。
その誓い、開始3秒で木っ端みじん。
まわりを人にぎゅうぎゅうに囲まれて、のんびりも何もありゃしません。気づけば私も、網にすくわれた魚。バシャバシャ、われ先にと泳いでおりました。
海の中では、足を引っ張られるわ、引っ張るわ。蹴られるわ、蹴るわ。
もちろん誰も故意じゃない。お互いさま、お互いさま、と念仏のように唱えながらの大乱闘。
プールでは絶対に味わえない、この身体と身体のぶつかり合い。これぞオープンウォーターの醍醐味だなぁと、揉まれながら妙に感心しておりました。
■ 1周目 ―― ブイ、見えない問題
とにかく1周目は無理をしない。そう自分に言い聞かせて泳ぎ出したものの、そもそも「どこからが無理」なのかが分からない。
とりあえず最初の250mのブイまで。回ったら次は500mまで…と、目の前のニンジンを追う馬のように、ブイからブイへ。
ところが、ヘッドアップして前を見ても、ちょっと前の集団が上げる腕やら水しぶきやらで、黄色いブイがちっとも見えない。波の谷間で頭を上げても、見えるのは波、波、波。
まあ、前に何人も泳いでるんだから、「だいたいあっちだろう」で押し切りました。人生、ざっくりでも案外なんとかなるものです。
500mのブイあたりで、ひんやりした冷たい流れがスーッと。ウェットを着た私には、これがまた気持ちよかった。
そのまま750mのブイを回り、白い横断幕を目指して…なんだかよく分からないまま、とりあえず1周終了。
■ 2周目 ―― 人の後ろにこっそり忍び寄る作戦
2周目。やっぱりヘッドアップクロールが苦しい。
そこで私、悪知恵が働きました。ちょうど前に、私と同じくらいの泳力の人が。よし、この人の真後ろにピタッとつこう、と。
これがなかなかの名案でして、前の人の流れに乗れて楽ちん。おまけに、その人についていけば、自分でヘッドアップしなくても方向が分かる。頭を上げる回数がグッと減って、実に省エネ。
ただ問題がひとつ。離れないように必死についていくもんだから、ときどきその人の足に、私の手がツンッ。
……あの、前を泳いでいた方。もし当ブログを読んでいたら、あのときの数々のご無礼、心よりお詫び申し上げます。悪気は、本当に、なかったのです。
250mのブイを過ぎたあたりで、さすがに後ろをコソコソ泳ぐのが歯がゆくなり、思いきってその人を追い越して単独走行へ。
ところがどっこい。1,750mのブイに近づく頃には息も絶え絶え。
「…あのまま後ろにくっついてれば、楽ちんだったのになぁ」
自分から抜いておいて、この後悔。人間、隣の芝生ならぬ、後ろの背中が青く見えるものです。
水色の帽子(一般男子3km 55歳以上の部)の私の右側を、黄色、ピンク、白と、いろんな区分の猛者たちがビュンビュン追い抜いていきます。
2キロの関門で、給水ボートに寄って一休みしようかとも思いましたが、喉もそこまで渇いてないし、ヘトヘトってほどでもない。よし、このまま行くか、と素通り。
■ 最終周 ―― 波と人生は、よく似ている
最後の1周。気のせいか、波が荒くなってきました。250mのブイもなかなか続けて見つからない。
疲れも出てきて、レッスンで習った「4回に1回呼吸」ではもう頭が上がらない。仕方なくプール流の「2回に1回呼吸」で5回泳いで、1回だけヘッドアップ。この繰り返し。
自分ではまっすぐ泳いでるつもりが、後から思えば、けっこう蛇行していたようです。
2,250mのブイを回ったあたりから2,500mまでは、波が高くてブイ探しに大苦戦。
波に翻弄されて、目標がちっとも見えない。
――これ、なんだか私の人生とよく似てるなぁ。
海の真ん中で、思わずクスッと笑ってしまいました。
そこから2,750mのブイまでの250mが、また長いのなんの。
「5回泳いで1回ヘッドアップ」が、疲れとともに「10回泳いで1回」に。もはや、たまに顔を上げるだけの潜水艦。
挙句、目標を完全に見失って、平泳ぎでブイを探しては、また泳ぐ始末。
あんまり蛇行していたもんだから、ボードの上のライフセーバーさんに、「あっち、あっち!」とジェスチャーで方向を教えていただく事態に。ご迷惑をおかけしました。
「ドローンで、いま自分が泳いでる映像を見てみたいなぁ…」
そんな妄想で、苦しさを紛らわせていました。きっと、酔っ払いがフラフラ歩いてるみたいな航跡だったに違いありません。
2,750mを越え、「あとラスト250m!」と思うと、不思議と力が湧いてくる。
それでもたまに追い抜かれるので、「方向は合ってる。でも私…もしかしてビリ?」なんて弱気もチラリ。
■ ゴール、そして計測器返却で…まさかの

ヘロヘロになりながらも、白い横断幕のゴールゲートを、なんとかくぐり抜けました。
邪魔にならないよう10mほど泳いで、よろよろっと立ち上がる。この瞬間の、地に足がついた安心感といったら。
前を歩く人たちの後ろについて、歩きながらウェットスーツのファスナーを下ろすと、締めつけから解放された身体がフワッと軽くなって、これがもう、天国。
ホッと一息ついて後ろを振り返ると、まだ泳ぎ終わって立ち上がってくる人が何人もいる。
「…よかった。ビリじゃなかった」
小さくガッツポーズです。
まわりの人と「お疲れ様でした」「やっと終わりましたね」と声をかけ合い、見ず知らずの者同士、お互いの完泳を讃え合う。この一体感も、また格別。
そして、ゲートで計測器を返却すると、その場で記録証をもらえました。
何気なく目を落として――びっくり仰天。
「59分51秒」
なんと、1時間を切っていたのです。
プールで3km泳いでも1時間くらいかかる私が、波にもまれ、蛇行し、人の足を触りまくったこの海で、1時間切り。
限りなく1時間ギリギリではありますが、私にしては上出来すぎる、オープンウォーターデビューとなりました。
高橋みよ先生に「59分台でした!」と報告したら、「速かったですね~」と褒めていただき、鼻高々。
ちなみに先生は51分台。さすが、元・私の先生。格の違いを見せつけられました。
そのあとシャワーを浴びて着替えて、ボランティアの友達たちにお礼を言って、館山駅へ。
なんとも言えない充実感に、ぷかぷかと包まれながら――
初めての海の大会は、こうして幕を閉じたのでした。
さて、次は9月の南房総。
また、網の中の魚になってきます。

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